第32回 落としたもの、いただいたもの

これは、とある私鉄(良いお話しなので実名を上げると東武東上線)でのお話しです。

私、終電近い帰宅の電車の中で、落としものをしてしまいました。
電車を降りてすぐに気付いたので、駅員さんに相談しました。すると時刻表を片手に私が乗っていた電車の時刻を見ながら通過駅に電話して、落とし物が届いていないかを確認しはじめました。
駅員さんは次々と電話して、「残念ながら○○駅には届いていないですね。次の駅に期待しましょう。」と報告してくれます。
残念な報告が続くのですが、私は不思議とすがすがしい気持ちになってきました。
電車での物品紛失。私には滅多にない大変な状況ですが、駅員さんにはきっと日常茶飯事の出来事だと思われるのに、マニュアル通りの対応を超えて、いろんな可能性を私と一緒に(いや、それ以上に)真剣になって考えてくれているのです。その真剣さ。その親身さ。それがひしひしと伝わってくるのです。最後には、私のためではなく、駅員さんのために早く見つからないかと、祈るような気持ちになりました。

終点の駅まで追いかけましたが、残念ながらその夜は見つかることはありませんでした。しかし私は駅からの帰り道「見つからなくてもいいや。それよりいいものを私はいただいた。」そんな気持ちになったのです。

「落としたものがあればいただいたものあり。」そして「捨てる神あれば拾う神あり。」
翌朝、その駅員さんの明るい声で「吉田さんの落としもの、○○駅に無事に届いています!」という電話がありました。