第44回 伝えたい

このたび二人目の子供を授かることができました。子育てへのプレッシャーなんかはなく、いまはただ感謝の気持ちでいっぱいです。

我が子のおかげで私はとても美しい場面を見ることが出来ましたので、このコラムを読んでいただいている皆さんにもお裾分けしたく。

生命誕生を見届けた私は、あふれ出る感情をクールダウンする為に病室を離れ、外の空気を吸おうとエレベータを下りました。祝日の出産だったため1Fのロビーは薄暗くひっそりと静まりかえっています。
エレベータを下りる際に1人の初老の男性とすれ違ったのですが、その男性は突然エレベータに向かって喋り始めました。「大宮から来た、○○です。」「孫はどこでしょうか?」
よっぽど舞い上がっていたのでしょう。彼はエレベータの自動音声(「ドアが閉まります」とかを発する)に向かって話していたのです。私は彼を2Fのナースセンターまで案内することにしてエレベータをご一緒したのですが、失礼とは思いつつもこらえきれずエレベータの中で笑っちゃいました。彼も照れくさそうに笑っていました。
「初孫ですか?」との私の問いに「息子達がよくやってくれました。」と一言だけ。

彼の初孫に伝えたい。
「君はこんなに素晴らしいお祖父さんに恵まれ、これほど愛され、これほど喜びを与えたんだよ。」と。
息子と同じ時期に同じ産院で生まれたという以外、僕は君を知らないけれど。