サイファー・テック代表取締役 吉田基晴のコラムです。
2016.1.12[ 特別回 ]
時評とくしま 1月1日付 美波で半X半IT

※この記事は2016年1月1日付 徳島新聞「時評とくしま」に掲載された記事を許可を得て転載しています。
 地方創生−。地方を元気にすることで都会も日本も元気になるということだろう。国策となると国が地方に何かをしてくれる、都会の企業が何かをもたらしてくれると期待する向きもあろうが、国も企業も慈善団体ではない。少なくとも当社も地方のためなんて考えていなかった。
 東京で起業し数年間、売り上げも上がらず社員も増えない状況に、悩み焦っていた。他人の成功話を聞いては「どうすればうまくやれるか」ばかり考えていた。何のために存在している会社で、何のために働いているのか。それさえも見失いかけていた。
 転機は趣味で始めた稲作だった。千葉の放棄田を借りて耕し、農薬も肥料も用いない素人の稲作を始めた。週末に都内から通い、耕し、植え、手入れをした。真夏の草抜きの過酷さに音を上げかけた。干した稲穂が乾燥段階で強風に飛ばされ、駄目になったこともあった。「努力しないと実らないが努力しても実るわけではない」。そんな当たり前のことを稲作が教えてくれた。
 全ての仕事の根源は、家族や大切な人たちと幸せな食卓を囲むことに違いない。より効率的に安定的にと工夫した先に、ITも含めた全ての産業が存在しているのだとすれば、いつもうまくいくことを求めること自体が身勝手な話だった。
 農や土から離れてしまって、それすら見えなくなっていた。肩の力が抜けた。身を置くIT業にあらためて相対しよう。
 稲作でもう一つ発見があった。稲作ではたくさんの人が手伝いに来てくれた。過酷な労働だが、笑顔があふれていた。わずかな収穫を分かち合ったときの喜びはかけがえのないものだった。
 現代にも、都会にも、ITにも土や農や自然との関係を求めている人がいる。自然の近くに寄り添おう。土や海、空、そして人と触れ合える環境を創ろう。テーマは「半X半IT」に決まった。都会では捨てざるを得ない大切な「X」と、仕事の両立が可能な生き方や働き方ができる場所。その観点で見たとき、古里美波町は輝いて見えた。見慣れていた風景も違った価値をもって見えた。
 「『X』の舞台だらけだ」。田んぼと港の隣にサテライトオフィス「美波Lab(ラボ)」を設立した。半農半IT、半波(サーフィン)半IT…に、続々と社員が集まった。社員は3倍になり、業績も改善されていった。
 都会で抱え、都会で解決できなかった課題を古里が救ってくれた。過去のものさしでは未来や幸せが測れず、多くの人も漠然とした不安に包まれているのではないか。国や都市が地方を救うのではない。美波、徳島、地方が新たなものさしを提供する場になれると信じている。
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