サイファー・テック代表取締役 吉田基晴のコラムです。
2016.4.11[ 特別回 ]
時評とくしま 4月1日付 美波で半X半IT

 過日行った数人枠の人材採用。美波町への移住が必須条件にもかかわらず、東京や大阪をはじめ全国から200人に迫る若者の応募があった。まさに珍現象。常識という既存の「ものさし」では幸せになれないのかもしれない。そう感じている若者が増えつつあると思う瞬間に美波ではよく出合う。
 2012年に美波町で初のサテライトオフィス「美波Lab(ラボ)」を構えた。その後、東京や大阪からIT会社など10社を超える進出が続いた。そこではプログラミングやデザインの技能を持った若者が働き、暮らしている。例えばサーフィン、釣り、日常に農がある暮らし・・・。豊かな自然が彼らを引き付けたのかもしれない。移住して暮らした先で彼らが口にするのは「ここには自分の居場所があった」「自分らしさに気がつきました」。
 彼らの変化はサテライトオフィスの開設を通じて私に生じた変化ともリンクする。チャンスの多さや寄らば大樹の安心を求めて都市を目指した。確かにそこには利便と悦楽と匿名の中に生きられる自由があった。しかし都会暮らしの中では自分の立つ座標がぼんやりしていた。「本当に自分が自分として社会から必要とされているのか」が感じられなかった。足元が不安定な感じだった。
 ここでは違う。社員は地元中学校へのIT出前授業の先生役をいただいた。IT業界に興味を持つ子どもたちの体験就労を受け入れた。小さな集落では地域の草刈りは住まう者の仕事であり、防災活動はまずは住民が担うものであり、お祭りは眺めるものでなく自らが作り上げるものになる。地域の人は移住者の家探しから汗をかき、助けられた先輩移住者は次の移住者のために汗をかく存在になる。そう、徳島の小さな町には、小さな会社でもちっぽけな一個人でも果たせる「つとめ」がある。ここで企業が社会の公器であり、社会が個人からなる構成体であることを初めて実感できた。その「つとめ」とは利他行為にとどまらず、自らを助け、自らの充足感につながる存在であることを知った。「つとめは人のためならず」なのである。
 グローバル化する経済のせいか、テクノロジーの発達のせいか、社会動態の変容のせいか。いずれにしろ激しく変化していく社会の中で、多くの若者が現代社会とその象徴のような都会に漠然とした不安を感じ、その他大勢の一人ではなく、自分が自分として、過去の常識に押しつけられたものではない自分の幸福の「ものさし」をつくろうと歩き出している。変わるべきは若者ではなく、大人であり私であり、あなたなのかもしれない。徳島を目指す若者たちが問い掛けているように思えてならない。
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