特別回 時評とくしま 9/30付 美波で半X半IT

地方と都会の2校で学べる「デュアルスクール」の試行が今秋、美波町で始まる。都会の児童が、住民票の移動無しの簡単な手続きで美波町の小学校に通える新しい教育のカタチ。緒に就いたばかりだけれど、私にはとても感慨深かった。
2012年に美波町にサテライトオフィスを開設して以降、私のライフスタイルは大きく変化した。月の半分を東京で、半分を美波町で過ごす「半都会半地方」の2地域居住。東京と、美波や複数の町で働き・暮らす人間になった。その暮らしで業種や世代を超えた多くの友人を得た。
今まで知らなかったことをたくさん経験し、田舎と都市の、それぞれの魅力と課題を見せてもらった。多忙だけれど実に有意義な境遇を得たと思っている。
2地域居住の利点は私個人だけのものではなかった。一人の人間が複数の町で生産し複数の町で消費する。一人を都市と田舎、田舎と田舎が奪い合うのではなく、その人が生み出す価値を複数の地域がシェアする。奪い合わずに分かち合う。これこそが人口減少社会の一つの答えだとの結論に至った。
より良い子育て環境を求めて家族での美波町移住を決めた時、東京育ちの妻が言った。「一家で美波に移住しても、お父ちゃんは東京の良さも美波の良さも味わえていいね。小学生の子どもたちと私はそれができない」。その通りだと思った。そしてその言葉にひらめいた。
私の移動に合わせてわが子が東京の学校にも美波の学校にも通えないものか。来週は東京の小学校、再来週は美波の小学校というような気軽さで、都会と田舎を同時に体感できないか。小さな頃から都会と田舎をフラットに眺められれば新しい視点を持つ大人になるのではないか。地域によって教科書が違うことを知るのも学びではないか。
2地域居住ならぬ2地域就学。これが実現すれば独身の若者だけでなく、家族もより柔軟で自由で自分らしいライフスタイルが実現できる! 地方も都市も交流人口や移住候補者を得られる機会が増える! プランを提言したらすぐに行政や教育関係者が動き、「デュアルスクール」の名を冠した2地域就学の扉が開かれることになった。
シェアハウスにシェアカー、シェアオフィスにワークシェア…と、一つのものを複数でシェアする時代。2地域居住に代表されるように複数の地域が一人の大人をシェアする時代でもある。そして次は子どもを複数の地域がシェアし、複数の地域が大切に育てる。徳島は今、動いたからこそ見えてくる課題の解決に挑戦しているといってもいい。次代を担う子どもたちを大切に育てる徳島、美波を誇らしく思う。